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臆病者の涙 |
「オレの、だよ。」 「だから」 「オレのモノでなきゃ」 「アンタを殺す。」 一言一言を区切って 噛んで含める様に…命令する。 「っやめ…ひっ…やめ…て…カカシさ…っ」 「本気だよ。絶対、殺すから、ね。」 言ってることは物騒なのに 涙腺が壊れた様に涙が止まらない。 オレは泣きながら 過ぎる快感に疲れ果て 抵抗しようにも力が入らない体を揺さぶり続けた。 それを見たときは まるで世界に一人だけになったような気さえした。 音は消え、感覚さえも消え、天地すら解らない。 音は消えた様に思うのに何かが煩くて我慢出来ない。 「…」 「カカシさん?」 その一言が聞こえた瞬間 何かが弾けて この世界に戻ってきた。 「何コレ。」 「何なのコレは!!」 「それは…」 「聞きたくない!!!!」 恐ろしい予感がして オレは言葉を遮る様に叫んだ。 その後はもう無茶苦茶だった。 誰よりも大切に思っている人なのに オレは彼の話も聞かずに ただ、力で捩じ伏せた。 そして 気が付いたら 俺のせいで汚れ疲れ果て、ぐったりとした体が 目の前に横たわっていて オレは心臓が潰れる音を 聞いた気がした。 泣き喚きたいけれど声は出ず ただただ怖くて震えることしか出来なかったオレは 間違いなくこの世の中で一番の愚かな者だった。 「…カ、カシさ…ん。」 潰れた声で、だけれども 優しい響きで オレの名前が呼ばれた。 ピクリと 手が動いた。 オレはそれを この世の全ての恐怖が動いたように感じた。 「…っ…ひっ」 喉の奥で声にならない声が出た。 「…アンタは、本当に…仕様が無い人だ、から」 「一度、だけは…許し…ます。」 「許して、欲しかった…ら ここへ、来な…さい。」 「…っ…は、い…」 裁きを待つだけの罪人となったオレには 逆らう術などなく その声に従った。 「いい、ですか? 良く、聞きな…さい。」 喋ることもつらいだろうに。 それを証明するかのように 所々声が出ていなかった。 「それ、は、アンタ、宛て…です。」 「…え?」 薄紅色の高価な封筒だった。 焚き染められた香。 中を見なくても解る。 間違いなく恋文と呼ばれるものだった。 「え…だって!…そんなこと…っ」 「おかしい」と言おうとしたオレの思考を読んだのだろう。 言葉を発する前に答えが返ってきた。 「この、前…2人で食事…したのを 見られ、ていた様、で」 「くの一の、上忍、に…命令され…た、んです。」 「アナタに、渡せ…と。」 説明は言葉少なだったが、オレはそれで全てを悟った。 オレはずっと長い間イルカ先生に片想いしていた。 出会った瞬間に恋に落ちた。 ずっと胸に秘めていた恋だった。 長い片想いを経て、ある日突然に恋が実った。 渇望して渇望して、でも手には入らないものだと諦めて それでも大切に胸に秘めていた想いだった。 …やっと手に入れた恋だった。 イルカ先生に出会ってからは もうイルカ先生しか目に入ってなかったから 当然その手の誘いは全て鰾膠も無く断っていた。 それに焦れた一人が イルカ先生とオレが食事をすることもある関係だと知り 中忍に命令した。 それなりに懇意にしている者に、 たとえ受け取るの気が無かろうとも その者には関係の無い文を突き返す訳が無い…と。 オレは言葉を失った。 勘違いで逆上し 何よりも誰よりも大事な人を傷つけ 踏みにじった。 「オレ、は、中忍で、す。」 「命令だ。と、言われて、断れ、る、ハズが、無いで、しょう…」 「…ぁ、ああぁ…っ」 聾唖者の様に 意味の無い呻きに似た言葉がこぼれた。 「勘、違い…しました、ね?」 「本、当に、仕様が無、い。」 「泣く、のは、止め、な、さい。」 「ここ、に、来て、謝、り、なさい。」 壊れた人形の様に手も足も動かなかった。 涙も止まらなかったけれど 這って傍に寄った。 「ごめ…なさい。」 オレはそれだけの言葉を発するのがやっとだった。 「動け、ない、ので、 後は、よろし、く。」 それだけ言うと コトリと首が力なく落ちた。 イルカ先生が気を失ったと同時に オレの身体は動くようになった。 心はまだ壊れたままだったが 目の前の力を失った体をそのままにしては置けなかった。 急いで、でもそっと 負担をかけない様にベッドに運んで 暖かい湯に漬けたタオルで汚れを拭った。 涙はやっぱり止まらなかった。 「アンタ、まだ、泣いてるんですか…」 微かな声に弾かれたように顔を上げた。 「コレっきり、ですよ。」 「二度目は、許しませんよ。」 「俺を、疑うなんて。」 「…は、い。」 「怖がらなくても、良いんです。」 「俺はアンタが、思ってる以上に」 「アンタのことが、好きなんだから。」 「…ぅっ」 「泣かなくても、良いんですよ。」 「アナタが、泣くことは、何も無い。」 「で、も…っ」 俺はアナタを疑って 傷つけて 踏み躙った。 「アナタは謝った、俺は許しましたよ。」 「…で、も…」 それで許される様な罪ではない。 「ここに、来なさい。」 「…寝ましょう。」 布団の端を上げて イルカ先生が笑った。 涙はやっぱり止まらなかった。 「泣き虫。」 つらくないことは無いのに それを感じさせない笑顔が見えた。 「怖がり。」 手が伸びてオレの手に触れた。 暖かい手だった。 「臆病者。」 優しい声が 暖かい手が そのは形容は 今まで一度も言われたことの無いものだったけれど 今までで一番、優しい響きを持っていた。 この先、どんなに凍えても オレは一生この手の暖かさを 忘れることは無いだろう。 |
20070227 狭量なカカシ。泣きっ放し。 ギャグを書こうと思って書き始めたのにな…。 |
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